PF(5th)

夏祭り

「ねえ知ってる?」
 どこか高揚した調子で恭子が話し掛けてくる。中学最後の夏祭り。浴衣を着ていれば、見慣れた幼馴染も可愛く見えるから不思議だ。
「かき氷のシロップってね、全部同じ味なんだって」
「え? そうなのか?」
 ちょっと待ってくれ。それなら300円でメロン味を買った俺が馬鹿みたいじゃないか。200円のイチゴで良かった。騙された。メロンは高級品じゃないのか。
「試してみる?」
 恭子が買ったのがイチゴ味で――
「『イチゴ味』の味がする」
「何それ」
 楽しそうに恭子は笑う。来てよかった。そう思う。来年からは違う学校。会うこともきっと少なくなるだろう。こんなふうに隣に居るのは、別の誰かになるかもしれない。
「目を閉じてみたら分かるかも?」
 なるほど。脳が騙されているのかもしれない。イチゴの赤。見えなくなれば何も分からない。メロンの緑。そもそもメロンは緑だったのかどうなのか。
「ね、どう? 分かりそう?」
「ちょっと、食べるのが難しいんだけど……」
「じゃ、食べさせてあげるね」
 恭子の声は少し震えている。何か、ひとつ勇気を出したのが分かる。幼馴染だから、感情の変化がよく分かる。
 小さく、唇に冷たい感触。シロップとは違う甘い匂い。
「……目、開けてもいいか?」
「だーめ! まだだめ!」
 赤くなった顔を見られたくない。そういうことなんだろう。
 花火が上がるまでもう少し。せめてそれまでには、目を開けることを許してくれればいいけれど。
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